伯珪の朝は早い。陽が登る頃鶏の鳴く声と共に起床し、少しの運動後馬の世話をする。そして皆で朝食を取り、一日が始まる しかし、この日、その日常が訪れることは無かった・・・・・・ 「ふぁ、ぁぁぁぁ。うう、流石に今日は眠い・・・」 先日、ついに曹魏との決着がつき、後始末で誰もが忙しかった。例外は自ら捕虜になった曹操達と月、詠くらいだろうか? 伯珪も夜遅くまで働き、ようやく休むことができた しかし悲しい哉、日常の習慣というものは中々取れず、常と同じ時間に目が覚めてしまった 「うぅ、眠い・・・でもみんなの世話しないと・・・」 己の愛馬達を思い、のろのろと着替え始める伯珪 事件は此処で発生した 「あれ?・・・あ、あれれ?・・・・・・う、嘘・・・・・・あ、あははははは、そ、そそそんんなここことああああるはずが」しばし呆然とし、改めて状況を確認。そして絶叫 「う、嘘だーー!!」 「朝っぱらから煩いぞ伯k・・・どうしたんだ?」 隣の部屋から騒音で叩き起こされた華雄が不機嫌そうに文句を言いに来た。しかし、部屋の惨状を見て思わず怒りを忘れてしまう 「あ、華雄か、ごめん・・・・・・」 「いや、それはいい。それで、一体どうしてこんな状況になっているんだ?」 「え?えっと、それはーそのー・・・・・・」 わたわたと慌てながら部屋に撒き散らされている服をかき集め、ポツリと呟く 「その・・・・・・服がきつくて着れないんだ・・・」 「・・・・・・・・・そうか・・・・・・・・・」 部屋に沈黙が訪れる。女性にとって服が着られない=太るということは致命傷に等しい 「と、とりあえず何か羽織るものを。後で主殿に言って今日の仕事を外して貰って、街へ買いに行こう」 「う、うん。そうだな・・・・・・」 再起動を果たし動き出す2人。何か羽織るものを探して部屋を動き回る華雄。散らかした服を片付けていく伯珪 その途中、あることに気が付く、いや、気が付いてしまった華雄が急に不機嫌になる 「ん?どうしたんだ?」 「いや・・・・・・そうか。そういうことだったのか・・・・・・」 「えっと・・・何があったんだ?」 急な変貌に戸惑う伯珪。恐る恐る理由を尋ねようとするが・・・ 「うぅ、この裏切り者め!よくも、よくも・・・よく、も・・・うわぁぁぁぁぁん!!!」 突然号泣しながら部屋を出て行く華雄。常とのギャップに戸惑いながらも原因を考える伯珪 しかし、彼女がそれを理解するにはまだ時間が必要だった・・・ 「ふ〜。流石にやることが多いな。ようやく終わったが、疲れた・・・」 魏を併呑し、やる事が増えたがそれもようやく一段落。まだまだやることはあるが、早急に、というものは全て終わった 庭を歩きながらその足は門へと向かう 「んー、今日は街に出てみるかな」 途中、見知った不審人物を発見 「何やってるんだ華琳?」 「え?ああ、あなたね。ちょっと場所を探していたのよ」 「場所?」 「そう。あまりにも退屈すぎるから、暇つぶしにこの本に書いてあるのを作ろうかと思って」 そういって俺に何かの本を渡す華琳 「これは・・・・・・酒造の本か。こんなのできるのか?」 「この私に不可能はないわ。まだ作る場所を決めている段階だけれども」 「そっか。まあ、作ることに反対はしないがせめて着手前には一言言ってくれ」 「わかったわ・・・・・・今日は前みたいなことしないでしょうね?」 「前みたいな事?・・・ああ。あれか。もうしないって・・・・・・多分」 そういいつつ手をわきわきさせてみる 「た、多分って言った!ああ、あの時のようにまた縛られて犯されるのね・・・」 演義っぽく嘆きながら崩れ落ちる華琳。ふと何かを思い出したように立ち上がりこちらを向く 「そういえばあの時、やけに縛るの上手かったわね?」 「そ、そうか?そんなことないとは思うが」 言えない。誰かに縛られるという恐怖を身を持って体験したから痛くないように気をつけて縛っただなんて絶対言えない! 「いーえ、そんなことあるわ。ははぁん、さてはあの子達にもやったのね。こんな鬼畜にやられるなんて、可愛そうな子達」 「人を勝手に鬼畜扱いするな」 話題転換には成功したか?表向き憮然としながらも心はドキドキだ 「で、正直に答えなさい。誰で試したの?可能性としては・・・そうね、華雄に黄忠、後は霞かしら?あなたと敵対したことある子は」 うわーい、まだしつこく食い下がりやがりますかこんちくしょう!誰かこの微妙な状況を助けてくれる救世主はおらんのかー 「あ、一刀。ちょっと頼みたいことがあるんだが・・・」 ナイスタイミング!この声は伯珪か。俺に頼みごととは珍しい、と思いながらそちらを振り向く 「なんdってどうしたんだそれ?」 「あー、実はな・・・」 そこには寝巻きの上に布を撒きつけた伯珪が立っていた。服はどうしたよおい・・・ 「という訳なんだ・・・」 「あー、なんというか、落ち込むなよ?」 「あんたは黙っていなさい。それより公孫賛、ちょっと聞きたいんだけど」 「ああ、私の事は伯珪でいいよ。んで、何が聞きたいんだ?」 「そう?なら伯珪と呼ばせて貰うわ。伯珪、あなたこいつとしたでしょ?」 ちょ、黙ってたら何をいいやがるこいつ 「ええええ!?あ、あぅ、そ、それは、その、ゴニョゴニョ」 「聞こえないわ。言いたいことははっきりとおっしゃい」 うわ、いぢめっ子だ。今の華琳はすっごい笑顔だ。怖い意味で 「ううぅ、したよ!一刀としました!これでいいんだろ!?」 顔を赤くして咆える伯珪。その仕草は萌えるぞ・・・ 「やっぱりね。ほんと、あなたってケダモノなんだから・・・でも今の表情はよかったわ」 こちらを向いて俺を貶した後ぽつりと呟く 「なんだ、お前だって同類じゃないか。こやつめ、ははは」 「誰があんたなんかと同類なのよっ!」 人の首を絞めようとする華琳。ははは、こやつめ自分の台詞を取られたのがそんなに気に食わなかったか 「わー、ダメだってば曹操」 「う、分かってるわよ。ただこいつが私のことを同類というからつい・・・」 「だったら同類言われるような言動をってごめんなさいすいません勘弁してください」 気迫に負けて思わず負け腰になる俺。ほんとに俺って華琳に勝ったんだよな? 「まあいいわ。伯珪。あなたはそれほど心配する必要はないわ。後、街に出るならこいつの上着を借りていくことね」 「ん、そうだな。流石にその格好で外出るわけにはいかないし・・・よっと。ほれ」 学ランを脱いで伯珪に羽織らせる 「あ、ありがとう・・・・・・・・・かずとのにおい・・・・・・」 「ん?何か言ったか?」 「い、いいやいや、なんでもないぞ、うん!」 何故か真っ赤になって俺の学ランに顔を埋める。なんでもない、とは思えないが、う〜ん、わからん 「そか?んじゃ行こうか。またな、華琳」 「ええ、精々闇討ちされないことね」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「そう、そういうことだったのね・・・」 華琳は何かを呟きながら自分の体を見下ろす 「私もされれば大きく・・・はっ!何を考えているの、馬鹿らしい」 街へ出ると人々の奇異の目に晒された。まあ仕方がないか、今の俺達の格好があれだし 「はやいとこ服屋行って買わないとな」 「ああ、そうだな・・・」 この状況で恥ずかしいのは分かるが、いつまでも動かないでいると余計恥ずかしいぞ・・・ 「ほら、いくぞ伯珪」 「あ・・・うん・・・」 伯珪の手を取って服屋へ向かう 初めて出会った場所は戦場で、それからは親友のような関係だと思っていた 袁紹軍や曹魏との戦いでは毅然とし、気迫や貫禄も俺とは比べ物にならないくらい、白馬長史と称されるにふさわしいものだった だが今俺の手が取っているのはそんな将軍の手ではなく、一人の少女の手だった (まるでデートみたいだな・・・あ、やば、意識したらあの時の事がっ!落ち着け俺、こんな所で冷静さを失うなっ!) こみ上げてくる感情を堪え、なんとか反応しない内に服屋へ辿り着いた 「すいませーん。えっと、この子の服を新調したいんですけど・・・」 「あら?太守様じゃありませんか。それにそちらの方は公孫賛様」 「あ、あははは。えっと、今までの服が着れなくなっちゃったから新しい服を買いに来たんだけど・・・」 「あら、そうでしたか。それでは寸法を測ります。申し訳ありませんが太守様は・・・」 「わかってる。ちょっと服を見させてもらってるよ」 「ありがとうございます。では公孫賛様、こちらへ」 「ああ。悪いね一刀。少し待っててくれ」 店の奥に入っていく店主と伯珪を見送り、店内を物色する うん、多分あいつは普段着とかしか選ばないと思うから。ここは俺が伯珪に似合う服を選ぼうじゃないか うーん、活発系美少女のお約束といえばフリルなんだが、ブラウスにスカートとか・・・あ、それだと普段とかぶるか・・・ キャミソールとか・・・いっそ和服ってそれはないか・・・・・・ん?こ、これは!? 「太守様、お待たせいたしました」 「ん、ああ、気にしないでくれ。それで、着れる服はあったかな?」 「あ、ぅ、えっと・・・」 店主と伯珪が戻ってきた。笑顔の店主と恥ずかしげに俯いている伯珪の様子から事件発生、という訳ではなさそうだが・・・ 「どうした伯珪?」 「そ、その・・・そう!一式新調にはなるけど別に太ったって訳じゃないって・・・あぅ」 ?訳がわからん。太ってないなら新調する必要なんてないとは思うんだが・・・ 「ふふ。太守様。公孫賛様は太ってしまい服を着られなくなったのではなく、体の一部が大きくなって着られなくなったのですよ」 太ってないのに体の一部が大きくなって着られなくなった?どういう事だろうか?・・・・・・ああ 「あー、その、すまん?」 「べ、別に一刀が謝ることじゃないよ・・・ただ、ちょっと混乱してて大騒ぎしちゃって、私のほうこそ悪かった」 「いや、俺は気にしてないよ。とりあえずこの件は一件落着、でいいのかな?」 「そうだな。ここでいくつか買って、後は縫い直せば着れるから」 「じゃあ店主さん、伯珪の着れる服を数着と・・・後これを」 そういって目を付けていた服を取り、代金を払う 「一刀、そんなものどうするんだ?ま、まさかお前が着「着るか!!」そ、そうか、そうだよな」 俺が着たら貂蝉クラスの犯罪者に成り下がってしまうだろう、常識的に考えて・・・・・・ 「これを伯珪に着て貰おうと思ってな」 「な、何ー!?こ、こここんなひらひらなものを私が何故着なきゃならないんだ!」 「えー、いいじゃん。絶対似合うって!」 「わ、私なんかが着たって似合うはずが・・・」 拒否しつつもちらちらと服に視線を向けるその姿、すごく、萌えです・・・ 「大丈夫だって!俺を信じろよ」 「う・・・・・・分かった、着てやる。その代わり似合わなくても笑うなよ!」 「んな心配ないって。楽しみに待ってるぞ〜」 そういって俺の手にあった服を取り、試着室へと向かう ・・・・・・所でこの時代にこんな立派な姿見なんて作る技術あったっけ? 「き、着たぞ。かなり恥ずかしいんだが・・・ど、どうだ?」 試着室から出てきた伯珪。その姿を見た俺は思わず親指を突き立て思わず叫ぶ 「GJ!」 想像してみろよ・・・ いつも気丈で元気な伯珪。それが今は照れ隠しによって挙動は不審、顔は赤くこちらの様子をちらちらと伺っては俯きを繰り返している そして極めつけはこの黒と白で彩られた「ゴスロリ服」 何故ここにあったのかはこの際どうでもいい それは伯珪の為に誂えられたかのように調和している。これで裾を手に取り笑顔で傅かれたら・・・・・・ 「うん、似合っているよ。見惚れるほど可愛い」 「そ、そうか・・・恥ずかしいけど、やっぱりそういわれると、嬉しいな」 そういって、かなり照れながらも俺に笑顔を向けてくれた。うん、これを選んでほんとによかった そのまま服を着て街を歩くことを決め、荷物にならないよう普段着は城に運んでもらえるように頼んだ そして街へ出る・・・ 「な、なぁ、やっぱり普通のに着替えてもいいだろ?みんなが見てきて、恥ずかしいんだが」 「それは伯珪が可愛いからだろ。俺としてはこんな可愛い伯珪をもう少し見ていたいなぁ」 「っ!?か、勝手にしろ!」 「ああ、そうする。って先にいくなよ、迷子になるだろ」 「誰がなるかっ!」 「そういや、昼飯まだだったよな・・・そこでラーメンでも食べるか」 「む、ラーメンか・・・この服では食べづらいし注意しないと汚してしまうな」 「おー、なんだかんだいって気に入ってくれたんだな、その服。送ったかいがあったものだな。はっはっは」 「ば、馬鹿、別に気に入ったとかそういう訳じゃ」 「むー、素直じゃないなあ。で、本当のとこは?」 「う・・・・・・・・・ただ、一刀から初めて貰った物だから、それが嬉しくて汚したくないだけで・・・」 「あーもう、可愛い奴だなー」 「うわっ、いきなり抱きつくな!皺になるだろう!」 「熱心に見てるみたいだけど、それは何の本?」 「ん?いや、これはただの学問書。これを見てたらさ、盧植先生に学んでいた時の事を思い出して」 「勉強か。俺は苦手だったな・・・」 「私もあんまり。外で馬に乗っていたほうが性にあっていたけど」 「それは伯珪らsいやなんでもない。けど?」 「友人に「伯珪ちゃんは太守様になるんだから、ちゃんと勉強しておかないとそこで暮らす人達が可愛そう」って諭されてね」 「ふ〜ん、いい友達じゃん」 「ああ、自慢の友さ。今は故郷の母親の所に戻ったっきりなんだけどな・・・・・・」 「大丈夫、必ずまた会えるさ。曹魏もなくなり、孫呉とは同盟。もう争うこともないんだしさ」 「そうだね。今の状況が落ち着いたら、尋ねに行ってみるかな」 「ここの桃は旨いぞ。なんたって我が軍の軍師お墨付きだ」 「太守様、こういう場面で他の女性の名を出すのはまずいですぞ。世の中にはヤンデレという言葉がありましてな」 「どっからそういう知識を仕入れてくるんだよ・・・・・・」 「ヤンデレって?」 「伯珪は知らなくていいんだ。というか知らないままでいてくれ・・・」 「???」 陽が落ち、夕焼けの街並みを歩きながら城へと戻る俺達 「あ〜、久々に楽しんだな」 「そうだなぁ、魏領併呑で部屋に篭って書簡にかかりっきりだったし。久々に羽を伸ばせたよ」 「ほんとほんと。歩いて食べて笑って、これで酒と遠乗りさえ出来れば完璧だったな」 「おいおい、遠乗りはいいが酒と一所は拙いだろう」 「はっはっは。この私が酔ったくらいで馬を乗りこなせないはずないだろう」 そう言って笑う伯珪。最後のほうはずっと笑顔でいてくれたし、楽しんでくれたんだと思う 俺も今日は楽しかった。またこうやって2人で街を歩くのもいいかもしれないな 「あ、一刀、ちょいちょい」 「ん?なん―――」 振り向き、すぐ目の前にある伯珪の顔。そして口には柔らかく暖かいものが当たって―― 「へへ、あの時も嬉しかったけどさ、やっぱこういう時にするのもいいかな、なんて」 そう言って笑う彼女の笑みはとても美しく、呼びかけられるまでしばしの間、呆然と見惚れていた・・・ そこは明らかに異質。まるでこの部屋だけが他の場所から切り取られたかのように 部屋の中にいる女性が撒き散らす負の感情によってこの部屋は混沌と化している そう、その女性こそ友の裏切りによって自棄酒をしている華雄だ この部屋の近くに来た者は皆本能で、或いは野生の感で離れていく 只一人、酒という餌に釣られてしまった霞を除いて・・・・・・ 「私だって好きで小さいままでいるわけではないっ!」 どん、と酒が入ったままの杯を机に叩き付ける。辺りには空の酒樽がいくつか転がっている・・・ 「そりゃあ、主殿だって「大きかろうが小さかろうがそんなものはどうでもいいんだよ」とか慰めてくれるけど」 杯を一気に呷り、酒を飲み干す 「ぷはぁ!でもでも、明らかに紫苑や愛紗の胸を見て鼻の下伸ばしたり・・・うう、私だって、私だってーー!!」 「・・・・・・これはどういった状況なのだ?」 「ああ、星ちゃん、助けて・・・ウチ、もうあかん」 星よ、ようこそ混沌へ。そしてさようなら霞。君は良い酒飲みだったが、自棄酒飲んでる者に絡んだのがいけなかったのだよ 「星か・・・ふ、所詮この辛さ、お前にはわかるまい・・・・・・」 「なんだ?どうしたというのだ?相当飲んでいるようだが・・・霞、生きているか?」 「そやつのことなぞどうでもいい。問題は貴様だ、星」 「私か?私は今来たばかりで事情が飲み込めないのだが・・・」 「いや、貴様だけではないな。愛紗、翠、紫苑、恋、詠、皆私の敵だ」 「敵とは穏やかではないな。何か不m「私の友は月と伯珪だけだった・・・」聞いてないな。既に泥酔していたか・・・」 ようやく何を言っても無駄と悟った星は自らの飲む酒とつまみを取り出し始める 「だが、伯珪は私達を裏切った!何故だ!!」 君と一刀が執拗に伯珪の胸を揉んだからさ 「うむ、やはりこの酒はメンマに良く合うな」 「ソノニクヲワケローーーー!!!」 メンマ片手に酒を傾け、もとい酒を片手にメンマを摘んでいた星に突然華雄が飛び掛る 「うわっ、何をする!ああ、私のメンマが!!」 「こいつがっ!こいつがー!」 「こらっ!いい加減に離rふひゃん。こ、こら胸を揉むな」 「あ、なんかいやーな予感しおるわ。早いとこ此処から逃げださにゃふ!?」 翌日、愛紗によってその部屋の封は破られた。そこで目にしたものは酒樽とメンマで散らかされていた部屋と3人の裸体・・・・・・ 昨晩彼女達の身に何が起きたのか?それを知るものはいない・・・・・・ 武将の顔、女の顔 「宝を取られたから洞窟ごと崩す・・・か。その心意気、天晴れとしかいいようがありませんわね」 「そんな暢気こと言ってる場合じゃないですって、麗羽様ぁ!」 「きゃーー!もう、こんなのいやぁーん!!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 「あら、行き倒れ?うーん、3人共立派な鎧着てるし、どこかの偉い方かな?とりあえず家で休ませてあげよう」 「う、うーん、ここは、どこですの?」 「あうぅぅぅ」 「いったたたた」 「あ、お目覚めですか?」 「貴女、一体誰ですの?私達をこのような貧乏屋敷に連れてきてどうするおつもりかしら?」 「び、貧乏屋敷・・・うう、好きで貧乏なわけじゃないもん。クスン」 「ま、まあまあ麗羽様、抑えて。えっと、貴女が私達を此処へ?」 「あ、はい。川へ水汲みに出かけたら沢でお三方が倒れてらっしゃったので、私の家で休んでもらおうと思いまして」 「あら、そうでしたの。その心がけ、殊勝ですわ」 「もう、麗羽様ったら。助けてくれてありがとうね」 「いえいえ。何も無いですが元気になるまでゆっくりしていってください。あ、荷物はそちらに纏めて置いてありますから」 「ご飯とかもないの?」 「あ、あぅぅ、ごめんなさい、この筵が売れないと今日のご飯はないんです・・・」 「文ちゃん、失礼なこといわないの!ごめんなさいね」 「いえいえ。今日は商人さんが来ていますから、これを売ってきて食事の用意をしますね」 「素晴しい心がけですわ!貴女お名前は?」 「はぁ。私は姓は劉、名は備、字は玄徳と言います」 「そう、玄徳さんね。その名前、そしてその心意気、この袁本初、しっかりと覚えておいて差し上げますわ」 「袁・・・本初・・・・・・」 「あら、この私の素晴しさに声も出なくなってしまいましたのね?これだから名門は困りますわ。おーっほっほっほ!」 「あ、あはは。えっと、それでは行ってきますね。早めに並ばないと食事が遅くなってしまいますから」 「うん、気をつけて。それと、麗羽様の言ったこと、気を悪くさせてしまってごめんなさいね」 「いえ、お気になさらず。それではまた後で」 「で、これからどうするんですか?麗羽様。あたしとしてはさっさと出て行ったほうがいいと思うんだけど」 「あら?どうしたんですの猪々子さん?私達のために用意してくれる食事を無駄になさるつもり?」 「いやー、そんなわけじゃないんだけどさ、なんとなく嫌な予感がして」 「そうかなぁ?文ちゃんの考えすぎだと思うけど・・・」 「そっかぁ?まあ斗詩がそう言うならいいけど」 「・・・・・・はっ、な、何が起こったんですの!?」 「姫ぇ、一服盛られたみたいです。だからさっさと出て行ったほうがいいって」 「うぅ、ごめんね文ちゃん。でもあの子がこんなことするなんてとてもじゃないけど思えなかったんだよ」 「キーー!!この縄を解きなさーーーい!!!」 「それは出来ません」 「あ、貴女、よくもこの私にこんな仕打ちを!只で済むと思っているんですの!?」 「はい、只で済ませるつもりですよ?」 「「「え?」」」 「この剣は中山靖王・劉勝の代より我が一族に伝えられし名剣。これならば武のない私でも人の首くらい簡単に落とせますから」 「ええええー!?中山靖王の一族って、玄徳ちゃん漢王室の人だったの!?」 「ちょっと、これはやばいっすよ。あの子、本気で私達を殺すつもりで・・・」 「ななななな、何故私達を殺すんですの!?」 「いえ、殺すのは貴女だけですよ、袁本初さん?」 「え?あ、それじゃあたしたちはセーフ。よかったぁ、斗詩と結婚する前に死ぬなんてやだもんなぁ」 「え?ええ?なんで私と文ちゃんが結婚することに!?」 「ちょっと!?よかったとはどういう意味ですの猪々子さん?私が殺されるというのにこの女を倒そうという気概はないんですの!?」 「や、それは無理ですよ。全然動けないんです。この子の縛り方」 「うん、私も抜け出せない・・・」 「明日、この幽州の名主様がやってくるんです。でもこの村は貧しいから、両脚羊を出すんです」 「両脚羊ってまさか・・・」 「ふふふ、そうですよ。貴女の首を切り、体は食材として。そちらのお二人は名主様への貢物として使います。ふふふふふ」 「げっ!貢物って、もしかしてあれか?男は奴隷として畑仕事に、女は慰み者としてって奴か!?」 「ふぇぇん、そんなの嫌だよー!どうしてこんなことするの玄徳ちゃん・・・」 「ふふふふふ。これで貴女達に殺された伯珪ちゃんの仇、少しでも取ることが出来ればいいわ。ふふふふふ」 「え!?玄徳ちゃん、伯珪さんの知り合い?」 「ええ。私達は同じ師の元で教えを受けていた親友よ。それを、貴女達がっ!」 「うわっ!かすった!ほらほら、髪の毛とかばっさりいってる!」 「そんなこと言ってる場合ではありませんわ!早くこの娘から逃げないと・・・あら?今ので縄が外れたのかしら?」 「おお、姫ナイス!早く私達の縄を解いてください!」 「お待ちなさい、今すぐに」 「ふふ、させると思いますか?」 「な、何故ですの、この私が怯むなんてっ!?あ、ありえませんわ」 「麗羽様、早くこの縄を解いてください。私達なら」 「甘いです!」 「く、このままでは拙いですわね・・・猪々子さん、斗詩さん、少し待っていなさい。必ず、助けに戻ってきますわ」 「あ、麗羽様!」 「に、逃げた・・・あたしら、どうなるんだろう・・・・・」 「ふふふふふ。この森は私達の縄張り。既に村の人達が逃げられないように包囲してるのよ」 「そんなっ!それじゃあ麗羽様は」 「逃げ出す場所はないわ。ふふふ、さあ!狩りの時間よ!」 「ああー、もうだめだぁ!せめて最後に腹いっぱいご馳走食べて斗詩の膝枕の上で死にたかったー!」 「私はまだ死にたくないよぅ!」 「何を読んでいるんだ華雄?」 執務を済ませ、華雄を呼びに部屋へやってきた 先日、様々な問題を引き起こすこととなった酒場混沌化事件 そもそもの発端の原因である俺達はそれはもう語るも涙、聞くも涙な目に合わされていたのだ。愛紗達の手によって その地獄もようやく終わり、今日は一所に外へ出て今までのストレスを発散させようじゃないか!という提案をしたのだ あっちもあっちで辛かったらしく、その提案は即座に了承された 「ああ、この前の騒動の前に買った物だ。読んでみるか?」 そういって俺に渡された本を見渡してみる。これがタイトルか? 「何々?「3馬鹿珍道中〜幽州両脚羊編〜」?なんだこりゃ?」 「さあ?桃屋の店主が珍しい書物だから、と格安で勧めてくれたものでな」 「ふ〜ん。ま、そんなものはどうでもいいや、早いとこ街へ行こうぜ」 本を机の上に戻し部屋の外へと戻る ―何故だろう?特に気にすることはないはずなのに何か外れを選んでしまったような気がするのは― 「そうだな。主殿が来るまでの暇潰しに、と読んでいたのだがいつの間にか時間が来てしまっていたか」 「気にするなって、本読んでる時には良くあることさ。んじゃま、行きますか」 久々の街へ出、人々の元気な姿と笑顔を見て癒される。前にここへ来たのがもう何年も前のように感じてしまった 「う〜ん、やっぱ街はいいねぇ。人々の笑顔はリリンの最高の癒しだよ」 あー、ハイになってるなぁ、自分で何言ってるんだかわかんねー 「そうだな。久々にこういった場に来ると、生きているという実感をするな・・・」 「そ、そこまで酷かったのか・・・・・・ま、まあそれはおいといて、どこから回る?」 段々と顔色を悪くする華雄。慌てて話題転換、こんな欝になる為に街へ出てきたわけじゃないんだ!」 「どこから、か。ふーむ・・・ではまずは鍛冶屋へ。それから飯と酒でも」 「酒はやめたほうがいいんじゃないのか?」 「う、確かに愛紗に禁酒命令を出されているが・・・・・・こんな時くらい、少しならばいいだろう?」 ああ、そんな力なく哀願するような目を向けないでー。ダメだ!ここで負けたら愛紗達に・・・ 「親父、これを頼む」 鍛冶屋につき早速武器を預ける 「へい!・・・おや?華雄将軍にしては珍しく手入れが届いてないですな」 「ああ・・・・・・お前も10日ほど鍛冶仕事を強制的に離れさせられて己の技についてを書に認めてみるがいい。発狂しかねんぞ?」 「そ、それはまたなんとも大変な目に・・・・・・」 「それに監視が付いていて良く発狂しなかったよなぁ、俺達・・・・・・」 一瞬こちらに怪訝そうな目を向けるがすぐにそれは哀れな人を見る目に変わった。チクショウメ 「では夕刻までに仕上げておきます。それまでの間はこちらを使いにますか?」 預けた武器の変わりに、と一つの戟を渡してくれる 「いや、身を守るくらいの武器ならば主殿より貰いし双剣がある。夕刻、取りに来るぞ」 「わかりやした。それでは早速」 そう言うとすぐに戦斧を持って奥の炉へと向かう鍛冶屋のおっちゃん 「それでは飯と酒だな。恋がよく行っている店・・・はまずいか。主殿、どこか愛紗達の知らない、旨い飯と酒を出す店をご存知ないか?」 「う〜ん、愛紗達が知らない隠れた名店、となるとなぁ。屋台とかどうだろ?」 「いいですね。ではそこへ」 「おや、主に華雄。早速息抜きですか?」 屋台で飯と酒を注文し、座るところを探していたらすでにラーメンを食べていた星に見つかってしまった 事件の直接の被害者だけあってその怒りは愛紗達よりも強い。まあ理解力もあるのでもうそれほど怒ってはいないが・・・ 「う、星。いやいや、警邏中休憩に立ち寄っただけですよ?」 「そうですか。ではその酒は必要ありませんな。私が頂きましょう」 「あ、ああー!私の酒が!!」 酒を取り上げられて悲しそうな大声をあげる華雄。許せよ、ここで反論して愛紗達の耳に入ったら殺されちまう! 食事も終わり、酒を飲めずに落ち込んでいる華雄を引っ張って屋台を後にする このままほっとくわけにはいかないけど、酒を買うわけにもいかないしなぁ・・・そうだ! 「華雄、ちょっとこの店寄るぞ」 「・・・ああ・・・」 うわ、魂抜けかけてる!? 「いらっしゃいませ。あら、太守様。そちらは・・・・・・華雄将軍ですか?」 「ああ、うん。まあ、ちょっとあって。この前来た時に華雄に似合いそうな服があったからさ、今日はそれを買いに」 「(ピクッ)」 「あらあら、それはそれは」 えーっと、確かこの辺りにあったような・・・あったあった 「これこれ。華雄、これを着てみてくれ」 「む。主殿がどうしても、というのならいいでしょう」 「ああ、どうしても着た姿を見たい。確かあっちに試着室あったよね?」 「ええ、あちらです」 「了解した。では主殿、後ほど」 不承不承という態度を表に試着室へと向かっていく華雄 だが服を探している俺を期待した目で見ていたりスキップしそうなほど足取りが軽かったりするのを俺は見逃していないぞっ! 「主殿、いかがですか?」 赤いチャイナ服を着込んだ華雄。因みにどこぞのエロ衣装と違って胸元は開いていないぞ、と念のため言っておく クール&ビューティーな人が着ると似合う、とは聞いていたが、これほどマッチするとは・・・ 「うん、凄く似合っているよ」 「そうですか。ふふ」 僅かに微笑みながらその場で動く。その度にちらちらと見える白い太ももがまぶしいぜ・・・ 「それにしても、これはいい服ですね。動きやすく、大きいものなら胸当てをつけた上からでも着られそうで。やや帯剣がしにくいですが」 流石武人、そっちに思考を持っていくか・・・ チャイナ服を購入し、それを着たままの華雄と共に再び街へ 周りからの幾度となく視線を送られるが 「どうした主殿?」 どうやらあまり気にならないようだ 「いや、なんでもない。次はどこへいく?」 「任せる」 むぅ、どこへ行ったもんか・・・ 「あ、主殿?このような裏路地へ何故・・・ま、まさか」 「ん?どうした華雄?」 「い、いえ。主殿のお望みなら、別に・・・」 挙動不審な華雄に疑問を持ちつつも目的の店に到着した 「ついたついた、ここだよ」 「は、はい・・・ん?ここは」 「酒蔵。ここなら流石に星達の監視も届くまいて。はっはっは」 前に警邏中、偶然見かけた酒蔵へと連れてきた。ここで監視の目なく気楽に飲めれば少しは気分が良くなってくれるはず・・・ 「そうですか・・・そうですよね・・・・・・・・・・・・少し期待してたのになぁ」 あっれー!?なんか予想と大違いな反応なんですがっ 「おや、太守様。いいところへいらっしゃいましたな」 「げ、おっちゃんかよ」 酒倉を後にし、表道へ向かう途中エンカウントしてしまった 「げ、とは酷い言い草ですな。まあそれはいいでしょう。太守様、これなぞいかがですか?」 「何だこれ?薬か?」 「ええ。かの有名な華佗という女医が作った収縮薬というものでしてな」 華佗も女性なのかよ・・・ 「その収縮薬ってどんな物なんだ?」 「これを夜の閨の前に相手に飲ませればさあ不思議、一晩だけ飲んだものを子供の姿に戻すというそういう趣向の方向きの薬でございます」 「いわゆるロリ薬かよ・・・・・・ロリ華雄か、いいかもしrって嘘嘘、嘘ですって!だからこの剣は収めてくれ!」 少し涙目でこちらを睨みながら首元に剣を突きつける華雄。ちょびっと萌えました・・・ そろそろ夕刻、最初に武器を預けた鍛冶屋の前で最後の仕上がりを待っている 「あ〜、久々の外はやっぱりいいねー。人々の喧騒に癒される・・・」 「そうだな。それを私達が守り、築き上げた、と思うと少し誇らしいな」 「お待たせしやした。おや?」 戦斧を持ち現れたおっちゃんがこちらを見て怪訝そうな顔をする 「ん?どうかしたか?」 「いえ、先程とは違って随分といい表情になったな、と」 「そうか?確かに、そうかもしれんな。これも主殿のお陰かな?」 戦斧を受け取り、満面の笑みを向けられる。うう、少し恥ずかしいぞ 「はっはっは!いやー、男冥利につきますなー太守様!」 「いた、痛いってばおっちゃん!」 肩をばしばしと叩かれ、それを見てさらに笑う華雄。うう、笑顔でいてくれるのはいいがこれじゃ少し情けないものがあるぞ俺・・・ 城への帰り道、人が集まっている所で何か騒ぎがあったらしく、少しそちらへ寄ってみる 「喧嘩だー!誰か役人を呼んでくれ!!」 「おおー!華蝶仮面だ!華蝶仮面が来たぞ!」 「何!?ふ、丁度いい、久々に体を動かしたいと思っていた所だ。主殿、私は行かせて貰う!」 「ああ、気をつけろよ華雄!」 「ええ。必ずや華蝶仮面の頚を手に入れてみせましょう!」 や、それは流石にまずいんだけど・・・まあそれくらいの気概で、ってならいいかなぁ デートのような状況で女の子な顔の華雄もいいけど、戦場で戦う猛将としての生き生きとした笑みも華雄らしくていいな・・・ さて、当面の問題はあの時袖の下に入れられたこの薬をどうするか、だな。ほんと、どうしようかねぇ、これ |