孫呉との争いも周喩による反乱も終わり、今この大陸は北郷軍に統一され、ようやく平穏が訪れている 窮屈な法もなく、理不尽な税もなく、賊や各地の残党軍による暴動もすぐに鎮圧され、悪事を働く商人等も即お縄 それでいて困窮に陥った地域には支援物資や新たな仕事等を宛がってくれる 各地は活気で満ち溢れ、民の顔にも自然と笑顔が浮かぶ 乱世が終わり、久しぶりに訪れた平穏な生活を謳歌している民達 そしてそれを願い、立ち上がり、ようやく理想を実現させた事で己の働きに満足している北郷軍の文官武官達 しかし世の中影ある所に光あり、また逆に光ある所に影あり 平和なこの大陸で不満を持ち、乱を起こしかねないほど不穏な雰囲気を持つ者達が集う場所があった それは―――― 「あ、おーい一z」 「か〜ずとー!」 「うわっ!?いきなり何するんだ小蓮!」 「えへへへへ〜」 「・・・・・・」 「あ、主殿いい所に」 「一刀、こっちこっちー」 「うわぁ!?急に引っ張るな、危ないだろ!」 「気にしない気にしなーい」 「・・・・・・」 「一体何様のつもりだあの小娘は!」 「どーせ俺は影が薄いさちくしょー!!」 「なんでまたウチがこんな目に・・・」 大ジョッキほどの大きさのコップをテーブルに叩き付けながら怒声をあげる華雄と伯珪 そしてそれに不運にも付き合わされる事となった霞 今3人がいるこの部屋は以前騒動の元となった曰く付きの部屋。何故かこの部屋で飲んだり不満をぶちまけたりと妙に落ち着く 今ではストレス解消の飲み場として、また誰かが叫んでいる時は聞かれたくないだろうから、と避けて通るのが暗黙の了解となっている しかし例外は存在する いくら短気な人間とはいえ、堪忍袋の緒が切れるためにはきっかけが必要となる そしてそのきっかけがないまま静かに飲み荒れていた2人に声をかけてしまった事で霞の不幸は始まった・・・ 全ての元凶は自称一刀の妻、小蓮 行く先々、会う人々に「私は一刀の妻だもん」と主張し、一刀の外堀を埋めていく さらに他の女性と会わせないように動きつつ既成事実を作ることで内堀も埋めようとしている 勿論、そんな事を他の女性達が許すはずもなく、城の各地では争奪戦や遭遇戦が発生している。水面下で、だ しかしそれが表面化するのは時間の問題だ。姉・蓮華を筆頭に反小蓮連合が立ち上がる可能性はかなり高いだろう げに恐ろしきは女の嫉妬。だがこの問題はそれだけでは済まされない 反董卓連合後の乱世のように、北郷軍幹部達が分裂する恐れがある 本人達にその意志はなくとも、そのように動かそうとする野心を持つものがいなくなった訳ではない 無論女性達にも独占欲というものはある。しかしそれをどうにかする器量が今の一刀には必要なのだ 現在の一刀にそこまでの器量はない。故に最近この部屋の利用者は増加傾向にある 霞がこの部屋にやってきたのも愛紗が構ってくれないため、それも小蓮の言動によるストレスでの八つ当たりを受けたからだ 「ウチだって愛紗が、愛紗がー!」 「そうか、お前もか霞・・・」 「一刀も一刀だ!あの餓鬼だけじゃなく玄徳にも手出しやがってー!」 恐らく今の北郷軍幹部で一刀が手を出していない女性は璃々くらいだろうか? 「そーいや、鈴々ちゃんも朱里ちゃんも月ちゃんも結構呼ばれてるらし・・・」 そこまで言って沈黙する霞。3人の頭の中には共通の言葉が浮かんだ 「「「・・・まさか、幼女趣味?」」」 言葉というのは不思議なもので、それを口にすると本当にそうではないか、というような気がしてしまう 「そんな・・・いや、でも」 「育たなければ良かったっていうのか!?」 「愛紗をやり捨て!?いくらご主人様でもそれは許さんで!」 いい感じに酔っ払い、勘違いしていく3人に幸あれ・・・・・・ 「小娘、か・・・主殿に限ってそんな事は・・・いや、でもあれは・・・」 「こいつぁ会心の出来栄えだぜ!ってどうしやした華雄将軍?」 「ん?ああすまない、少し考え事をな・・・・・・ふむ、やはり良い腕をしている」 街の鍛冶屋でいつものように武器を鍛えて貰い、その出来栄えに感心する華雄 「ありがとうございやす。ですがもう、華雄将軍の武器を鍛えるのも終わりですなぁ」 「どういうことだ?」 「いえね、あっしは元々農具を作ってたんですが、この戦争で俺達を守ってくれる人達の為に武器を鍛えるようになったんでさあ」 「そう、だったのか」 「へえ。だけどもう争いも無いし、今は武器よりも農具の注文が多い。これを期に太守様が決めた開拓予定地で働く人の為に槌を振ろうと思いまして」 「素晴しい意志だな。新天地でも体を壊すことなく、頑張れ」 「へへ、そう言ってくれるとありがたいですね」 「ああ、お前は立派だよ。少ないが今までの礼だ。私の武器を鍛えてくれて、ありがとう」 代金と心付けを置き武器を手にその場を離れる 「ではな」 「へい。ありがとうございやした!!」 振り返ることなくその場を離れ、ぽつりと呟く 「争いのない世、か。武のみで生きてきた私に、居場所はあるのだろうか・・・・・・」 「さあよってらっしゃいみてらっしゃい!新鮮な果物に旅に必須な干肉や干飯、塩や本や反物等、どれも安いよー!」 悩みながら歩いている華雄。ふと聞こえたのは顔なじみの店主の声 「相変わらず雑多に物を売っているな」 苦笑しながらそちらへと足を向ける。そして売っている品が常よりも安いことに気が付いた 「おや華雄将軍、お久しぶりですな」 「ああ。しかし随分と安く売っているな。何かあったのか?」 「はい。戦も無くなったので当面は物価が安定するでしょう。ですから、その物価が安定するまでの間が狙い目なのですよ」 「なるほどな。しかしそれにしては常よりも・・・まさか」 訝しげに店主を見ると直ぐに手を振り否定する 「いやいや、勘違いして貰っては困ります。私が今売っているのはこの店の信用なのですよ」 「信用?」 「そうですとも。信用を得られるなら今安値で売り、多少赤字を蒙っても構いません。この国が豊かになった暁にはこの店は信用できるからと大勢の人が買いに来てくれればいいのです。 左程高値を付けずとも品物がすぐに捌け、1つ1つの利は少なくとも数でそれを補いうる。まさに塵も積もれば山となる、ですな」 「なるほど・・・あまりこちらに詳しくはないが、そういったやり方もあるのか・・・」 「ですが嗅覚の鋭い私のような者はそれだけではありませんぞ」 「?」 「日常品や雑貨品は赤字になってでも安く売るべきですが、逆に高く売れる物もあるのですよ。例えばこちら」 店主が店のやや奥に置いてある薬箱を指す 「これは?」 「精力剤等の夜のお供ですな。争いが終わり、家族や愛する者と安心して暮らせる。しかし中にはこちら方面で不安な方もおりましてな」 箱の中から一つの薬方を取り出す 「これは持続力が増す薬でしてな、男性だけではなく、子を欲しいと願う女性達にも人気なのですよ」 「子供、か・・・」 「もっとも、人の命とは天命によるもの。こういった薬は厭くまで補助的な物でしかないのです。ですから薬に頼りすぎるのも問題ですが・・・」 そう言って薬を華雄に手渡す 「店主?」 「それは華雄将軍に差し上げます。実は華佗殿が依頼の品よりも1つ多く薬を分けてくれたのですよ。これもまた天命でしょう」 「ふ、天命とはな。では貰っておこうか」 「はい。次に来た時には何かを買ってくださいませ。今のお勧めはこの「恋姫OROCHI〜全員集合〜」でございますぞ」 「商売上手だな。分かった、次に来たら何か買っていこう」 「毎度、ありがとうございます!」 城に戻り、いつこの薬を使おうかと考えながら歩いていると途中で声をかけられた 「華雄様、伯珪ちゃんがどこにいるかわかりませんか?」 「ああ玄徳か。伯珪は・・・多分まだ「あの部屋」にいるのではないか?」 今朝方起きた時、伯珪も霞も起きる気配はなかった。転がっていた酒樽の量を考えると多分今日一日は満足に動けないとは思うが・・・ 「う、「あの部屋」ですか。あそこ酒気がきついんですよねぇ・・・はぁ、起こしにいきますか。華雄様、ありがとうございます」 「気にしなくていい。それより、何かあったのか?」 「ええ、伯珪ちゃんの印がないとダメな書簡がいくつかあって・・・あ、それではこれで」 「ああ、またな玄徳」 ぱたぱたと走りながら立ち去る玄徳 「そうか、そういえば伯珪は元々一国の長だったな・・・・・・」 それに玄徳も伯珪と共に同じ師の元で人や土地を統べる知識を学んだと聞く それと比べて私は・・・どうすればいいのだろうか? 部屋に戻り何かを持ち出して一刀の部屋へと向かう華雄 「主殿、少し話がある」 「ああ、どうぞ」 扉を開け中へ入る。しかし・・・ 「何故お前がここにいる?」 「あら、いいじゃない。私は一刀の妻だもん。一所にいるのは当然のことよ」 「そうか・・・ふ、持ってきて良かったな」 一刀の部屋に我が物顔で居座る小蓮を発見し、動かないと見るやどこからか戦斧を取り出す華雄 「げ!?ちょ、ちょっと待て華雄!ここで暴れたら」 「何、心配することはないですよ主殿。悪戯がすぎる子供を叱るのも大人の役目というもの」 「あら、すぐに暴力に出るなんてみっともないわよお・ば・さ・ん♪」 トンデモナイ発言により血の気の引く一刀。だが 「ふんっ!」 動じる事無く戦斧を振るい、小蓮を吹き飛ばす 「あぅ」 「お、おい華雄」 吹き飛ばされ、壁に頭を打ち気絶した小蓮に持っていた縄であっという間に拘束していく 「・・・・・・どこかで見たような縛り方だな・・・」 「ああ、あの時のあれは私が星に教えたものだったな。さて、それでは外へ行こう。話したい事がある」 「・・・分かった」 いつもと違う雰囲気な華雄にようやく気が付いた一刀は了承し、城壁の上へと華雄を連れて行く 後には亀甲縛りをされ、気絶している小蓮だけが残っていた 「夜風が涼しいな・・・」 「そうだな・・・」 久々の夜風に当たり、心地よい風で安らぎを得る 最近は孫呉の事後処理やら小蓮の連続アタックやらで安らぐ暇がなかったからなぁ・・・ 「ようやく、この大陸にも平和が訪れた・・・街を歩き、人々の笑顔を見て、そう思えるようになった」 「ああ、これもみんなのお陰だ」 「だが、私は武人だ。幼き頃よりこの武器と共に生き、幾多の戦場を駆け抜けてきた・・・私は不器用だからな、それ以外の生き方を知らない」 「華雄・・・・・・」 懐かしむように昔を語り、少し自傷気味に言葉を紡ぐ華雄 人である以上弱さはある。だが俺は華雄の弱気な姿を見たくないと、いつもの強気な華雄でいて欲しいと少々傲慢にも思った 「争いが無くなり、武人としての武を振るう場はもう無い・・・・・・私は、これからどうすればいいのだろうか・・・」 「それは、少し違うと思う」 「主殿?」 「確かに争いは無くなって平和になった。でも、だからといって武が不要になった訳じゃない。平和を維持するのにも力はいるさ」 それに・・・ 「それに、北方や南方の異民族問題もあるしな、まだまだ軍を解体出来るほど安全な世の中になった訳じゃないんだ」 あの白装束の奴等の動向も気になる。孫呉での動きを見るとホントに異民族襲来の手引きをしかねない 「いざとなったら道場を開いて自分の技を後世に伝えるのもいいし、この大陸だけでなく、海を渡って自分の武を確かめにいくのもよし、ってね」 なんとなくウインクしながら華雄を見る。最初は呆然と目を丸くしていたが・・・ 「ぷ、ははははは!そうか、そういうこともあるな!いざとなれば海の向こうもある、か」 爆笑し、嬉しそうに笑いながら俺の言った事を確認するように呟いている 「そのときは、主殿も来てくれるな?」 「え?・・・・・・そうだなぁ、そういうことになるなら、一緒に行きたいな」 この世界に留まれるのかそれとも元の世界に戻ることになるのか、どちらになるかも分からずにいた俺はその問いに即答出来なかった 「・・・・・・そうか」 華雄が後ろに手を回し何かを持ち腕を振る。シュルシュルという音と共に縄が俺の体を覆い動けなくする 「―って!また縛られてるー!?」 「主殿・・・・・・」 あれ?また閲覧禁止な目にあうかと思っていたのに。寂しそうな声で俺を呼び、抱きついてきた 「主殿は、元の世界に戻るつもりか?」 「え・・・それは」 「私は主殿を愛している。だから離れたくはないし、離したくもない」 「華雄・・・・・・」 さらに力強く抱きついてくる。縛られているので抱き返すことは出来ないが、俺だって 「俺だって、華雄のことが好きだ、愛している、離れたくは無い。でも、正直元の世界にどうこうってのは、わからないんだ・・・」 「そう・・・か」 何故俺がこの世界にきたのか、それさえも分からず、そしてどうなるのかすら分からない 正直、元の世界への未練はあまりない。今はこの世界で出会い、共に戦った仲間達と共に居たいと願っている 「ならば私はこうして主殿を捕まえていよう。元の世界に戻れなくなるよう、例え戻る事になったとしても共にその世界にいけるように」 顔だけ後ろに向けて、キスをする。絶対に離れないという意志を籠め、誓いを交わすように・・・・・・ |