晴れ渡る青空に午睡を誘う穏やかな午後。

 天の御遣いこと北郷一刀は、この日のために用意された青空教室ならぬ青空玉座に座っていた。

「はぁ……」

 今日何度吐いたのかわからないため息を吐く一刀。

「なにをいっちょまえにため息吐いてんのよあんたは」

「しょ、小喬ちゃん、一刀さんに失礼だよ〜」

 玉座の両翼にいるのは江東の二喬こと小喬と大喬。

 二人が身につけている服は、それぞれ胸に『だいきょう』と『しょうきょう』と書かれたワッペンをつけた体操服と紺と赤のブルマ姿であった。

 そんな格好をした二人を従えた一刀の前では、『蜀』、『魏』、『呉』の戦旗がくくりつけられた棒を倒しあっている各国の兵士達と一騎当千の少女達の姿であった。

「どうしてこんなことになったんだろうか……」

 眼前で繰り広げられている白熱の戦いをよそに一刀は晴れ渡った青空に流れる雲に向かってひとり呟いたのであった。







 恋姫†無双 〜ドキッ! 女の子だらけの運動会〜 ブルマ覚えていますか?







 北郷一刀は、強国であった魏、呉を仲間達と共に破り今や中原の覇者として大陸に君臨していた。

 啄県から洛陽に遷都し、各地に代官を送り内政に力を入れた。

 黄巾の乱から続いていた戦乱の傷がようやく癒えようとしていたのである。

 後の問題は天の御遣いである一刀の命を狙う白装束の集団の行方――

 だけだと思っていたが、いずれ起こるであろうと予測されていた問題が洛陽の宮殿内に波紋を拡げていたのである。

 それは、ある意味一刀自身が今までしてきたことに対してのツケのようなものであった。

 その一例を挙げると、先日、一刀はいつものように政務をサボって宮中で散歩していた。そこで偶然にも元呉王であった蓮華と会い、二人は庭でお茶をすることにしたのである。

 同年代の女の子である蓮華との会話を楽しむ一刀。

 蓮華も戸惑いながらも一刀との会話を楽しんでいた。

 しかし、そこに一刀を探して偶然やってきた愛紗に見つかってしまう。

 愛紗は蓮華に今が戦闘中であるかの如く殺気を放ち、対する蓮華も一刀の前で見せていた女の子らしい表情を消し、王であったときのように冷たい眼差しを愛紗にぶつけていた。

 これだけでも一刀にとっては災難であったが、神は彼にさらなる試練を与える。

 その場所に元魏王の華琳までやってきたのである。

 彼女は所用で街に出る許可を貰うため一刀を探していたのである。あわよくば彼を監視役として一緒に出かけるために。

 三者の間に迸る火花。

 一刀にとっては絶対零度に感じるこの空間こそが、一歩間違えば国の滅亡にも繋がるというこの国が抱える最大の問題であった。

 愛紗、蓮華、華琳だけではなく、北郷軍に敗れて捕虜の身になった者達と一刀の部下達との間で、こうしたことが多々起きていたのである。

 この現状を打開するために、一刀は、困ったときのはわわな軍師こと朱里に相談をすることにした。



「ご主人様が『かわいい女の子にヒドイことなんてできないよ』なんておっしゃるから、こんなことになるんですよ?」

 相談の内容が内容だけにちょっとご機嫌斜めな朱里。

 ここで、一刀が朱里の耳元で愛の言葉の一つでも囁くことが出来たのなら彼女は持てる能力を総動員して彼に協力したのかもしれない。

 だが、彼にそんな甲斐性はなかった。

 ひたすら、朱里にペコペコと頭を下げてお願いするのであった。

 主従の関係が全く逆である。

 まあ、中原の覇者になっても愛紗や朱里に財布の紐を握られている立場でもあるので仕方が無いと言えばそれまでではあるが。

「……皆さんは、これまでの敵対関係にあった立場にあります。ご主人様のように過去のことはキッパリ水に流してというのは理屈では理解できても感情がそれを認めないのでしょう」

「うーんそういうものなのか?」

「もっともそれは建て前で、ご主人様のお気持ちを少しでも惹こうと懸命なだけなんですけどね……私も含めて」

 一刀に聞こえないようにボソッとそう呟く朱里。

「ん? 何か言ったか朱里」

「……いいえ」

 朱里は平常心を装って感情を隠しながら一刀の言葉にそう答えるだけだった。

「朱里の言葉が正しいのなら、このまま放っておくとストレス……もとい精神的にあまりよくないな……そもそも互いのことをよく知らないからこそ構えてしまう訳で、それを解決するには……そうだ!」

 名案が思いついたとばかりに手をポンと叩く。

「体を動かすことで鬱憤を吹き飛ばし、スポーツを通してお互いの親交を深めることでこの現状が少しでも好転するかもしれない」

「すぽーつ?」

「ああ、俺が元いた世界では戦場で剣を交える代わりに、色々な約束事を決めて安全に競い合う勝負をすることをスポーツと呼ぶんだ。俺の剣術も元は剣道というスポーツからきているんだ」

「へぇーそうなんですか。天界ではそのようなものがあるのですね」
 
「うん。だからさ、みんなでスポーツの大会……俺のいた世界では運動会とかいう名前で呼ぶんだけど、様々な種目で互いに競い合うことで仲良く出来るきっかけになればいいなっておもうんだ」

「それは名案かもしれませんね」

 朱里が一刀の提案に同意する。

「けれど、それだけじゃあ参加する人、しない人がでるだろうなぁ。無理強いはしたくないし」

「でしたら、優秀な成績の方に何らかのご褒美を用意すれば参加する意欲が湧いてくるとおもいます……ご主人様、許可を頂けるなら私がその運動会の準備をしたいのですが?」

「えっ? こんなことを頼んでもいいのか」

「はい、私もみなさんと仲良くしたいですから」

 朱里はニッコリと微笑む。だが、すぐに恥ずかしそうな表情に変わって、

「……つきましては、ご主人様にその運動会について詳しくお聞きしたいのですが……」

 ありったけの勇気を振り絞る。

「ああ、そんなのお安い御用だ。部屋でお茶でも飲みながら話そうか?」

「はい!」

 こうして、朱里は一刀と二人で一緒に過ごせる時間を手に入れたのであった。



 朱里に相談した翌日、家臣のみならず魏と呉を含めた者達が宮中の謁見の間に集結をしていた。

「……という訳で、今度この洛陽で運動会を開催しようとおもう」

 一刀のこの発言に皆がざわめきはじめる。
 
「おもしろい! 実戦でないのが残念ではあるが、その運動会とやらの遊戯で己の力、ひいては華琳様の御力を示すことの出来る願ってもない好機」

 ざわめきを破ったのは、華琳の忠臣である春蘭の発言であった。

「頼もしいわ春蘭……秋蘭、桂花、季衣! あなた達も私に勝利を捧げなさい」

「はっ!」

「……華琳様がどうしてもそうお望みならば」

「は〜い」

 華琳の言葉に従う秋蘭、、季衣。

「……けれど〜頑張ったご褒美がお金や食料では少し物足りない気がしますね〜」

 呉の軍師穏が魏軍のやる気を削ぐかの如く間延びした声でそう呟いた。

 穏の何気ない発言が波紋を拡げ、みんなのやる気が少し下がった所に星が一つの提案を出した。

「なれば、この運動会とやらで一番になったものは、わが主に対して一つだけ何でも願える権利を戴くというのはどうであろうか?」

 まるで名案だとばかりに微笑む星。

「ああ、俺で出来る範囲ならいいぞ」

 一刀は計画が壊れるのを防ぐため深く考えずそれを受け入れる。それがいけなかった。

「じゃあ、じゃあ、鈴々が一番になったらお兄ちゃんにご褒美としていっぱいちゅーしてもらうのだ!」

「あ〜それいいなぁ。ボクも兄ちゃんにちゅーしてもらいたいな〜」

 鈴々、季衣のチビッ子猛将コンビのこの発言に、謁見の間の空気が一瞬凍りついた。

「……た、たかが、接吻ごときに」

 春蘭が頬を朱に染めながら二人の発言をたしなめようとする。

「あら、そうかしら? 情緒の時と普段の時ではその意味が違うでしょ? 何よりご主人様からしていただけるというのが重要じゃないかしら?」

 紫苑が指で唇を押さえるようなしぐさをしながら火に油を注ぐような発言をする。

「ほう? なればあの時の……」

 それに便乗して星がさらに焚きつける。

「ななななな、なんてこと言うんだよ! こ、このエロエロ魔神!」

 発言した者ではなく一刀を非難する翠。

「そんなことを言う翠のほうがすけべなのだ」

 鈴々は翠をからかいだす。

「じゃあ、シャオは一刀にお婿さんになってもらう!」

「小蓮!」

 一刀に結婚を迫る小蓮とそれをたしなめる蓮華。

「必ずや勝利を……そして北郷に蓮華様を」

 自分のためではなく主にのために勝利の栄冠を掴もうとしている思春。

 謁見の間は少女達の騒ぎに包まれて収拾がつかなくなっていた。

 その時、この事態を何とかしようとしていた一刀と愛紗の目が合った。

「あ、愛紗」

 藁をもすがる気持ちで愛紗に助けを求める一刀。だが、肝心の愛紗はプイッとそっぽをむく。

 かなりご機嫌斜めのようである。

「あたしは、接吻だけじゃ物足りないから、あつ〜い一夜をご主人様と〜」

 どさくさにまぎれて鍛え上げられた身体を怪しく、くねらせながら一刀にせまる貂蝉。

「ち、近寄るな筋肉妖怪!」

 一刀は腰に差していた護身用の剣で容赦なく貂蝉を斬りつける。

「ああ! ご主人様と憧れの丁々発止! けれど燃えるような愛が痛い!」

「イタイのはお前の存在そのものだ!」

 そんな訳で、その日の洛陽の宮中はいつにもまして混沌としていたのであった。



「……と、まあそういう訳で今に至るんだが」

 一刀はこうなった原因をおもい出しながらそう呟いた。 

 目の前で繰り広げられている棒倒しは現在、『蜀』の北郷軍が三組の中で一番劣勢であった。

「しかし、朱里任せておけば大丈夫だと任せていたけど話を俺の聞いただけじゃ、棒倒しもこんな大掛かりな競技になる訳だ……何か軍事演習をやっているみたいだな」

 この世界と一刀がいた世界とでは様々なことが異なる。

 だから、言葉で疎通を交わしても物の考え方が根本的に違うことがあるのだった。

 この運動会に本来関係ない兵士達の協力を得てダイナミックな棒倒しが行われているのである。

「……みんなには超過勤務代を払っておこう」

 一刀は運動会に巻き込まれた兵士達にそれで恩に報いることを考えるのであった。

「こら! こんな美女を二人もはべらせておいて無視するんじゃないわよ!」

「しょ、小喬ちゃ〜ん」

 江東の二喬に意識を呼び戻された一刀。

「ああ、ごめん。ちょっと日差しが強くて……」

 何でもないという風に誤魔化す。

「ええ! 一刀さん大丈夫なんですか?」

「別に、大したことは……って、だ、大喬?」

 大喬は一刀の前に身を乗り出し、手のひらを彼のおでこに当てて熱がないか診断を始める。

 そんな慌てる一刀を見て小喬は何かをおもい付いたように小悪魔のように微笑んだ。

「一刀様〜大丈夫ですか〜?」

 猫なで声で一刀に密着する小喬。

「ちょ、ちょっと二人とも大丈夫だから! 離れろってば!」

 密着する女の子達の肌の柔らかさに、一刀のある部分がのっぴきならない状態になってきた。

「あたし達の『ぶるま』姿と乙女の柔肌に魅了された?」

「ち、ちがう! そんなことはない!」

 小喬の意地悪な言葉に反論する一刀。

 二人にばれない様に精神統一を図り、理性を落ち着けようとする。

(せ、精神を落ち着けるには、まず、何だっけ? 確か愛紗が……)

 一刀の脳内に浮かぶのは、何故かというか男の悲しいサガ故に、体操服とブルマ姿の愛紗であった。

 脳内に浮かんだ愛紗の姿に「愛紗さん……それは反則です」と呟き、さらに状態を悪化させる。

「ほらほら〜どうしたのかな〜?」

「か、一刀さん! 何だが熱が出てきたみたいですよ!」

 大喬と小喬に挟まれて天国と地獄のような気分を体験する一刀であったが、突然、彼の背中に悪寒が襲う。

 一刀はある一点から発せられる殺気に顔を向ける。

 それは棒倒しで指揮を執っているはずの朱里から殺気は発せられていた。

 棒倒しの競技が行われている場所と一刀のいる特設の玉座が設けられた場所の間にはかなりの距離がある。

 それでも一刀は遠くにいる朱里の姿を肉眼でとらえているような感覚に襲われていたのだ。

 朱里は笑顔だった。但し、ツクリモノの怖い笑顔だが。

 彼女の小さく愛らしい唇が動く。

『ゴ・シュ・ジ・ン・サ・マ・ア・ト・デ・オ・シ・オ・キ・デ・ス・ヨ?』

 一刀に読唇術の技術はないがこの時、確かにそう感じた。いや正確に把握したのである。

 だらだらと冷や汗を掻きだす一刀であった。

 そしてその瞬間、劣勢だった蜀軍の旗は持ち直し、電光石火の勢いで魏と呉の旗がバタバタと倒れるのであった。

「……さすがは孔明。やるわね」

 朱里の術中に嵌まった華琳は敗れはしたものの嬉しそうに微笑んだ。

 蜀軍を勝利に導いた朱里のコメントは、

「いえ、運がよかっただけですよ」

 という謙遜したコメントをしていたがその後、

「……ご主人様ったら、でれでれしちゃって……大体、大喬さんはともかくとして、小喬さんはご主人様のこと嫌ってたはずなのに、まったく……」

 と、誰にも聞こえないように呟いていたのである。

 恐るべきは稀代の軍師としての智かはたまた恋する乙女のパワーなのか。

 

 そんなこんなで運動会は続いてゆく。

 肉まん食い競争では鈴々、季衣、恋のハラペコトリオが他人の分まで食べてしまって失格になったり。

 騎馬戦では本当の馬を使い、本当の戦場のようになる。しかも、互いにライバル同士で争い同時に脱落したりして混乱した部隊さながらの様相であった。

 はたまた、障害物競争においては競技者同士が横槍を入れて障害物そのものになったりした結果。

「ご〜しゅじんさま〜璃々がいちばんだよ〜」

 誰にも横槍が入れることができない紫苑の娘である璃々が一番になったりして、ドタバタ運動会は波乱に満ちていたのである。

 滅茶苦茶ではあるが、観戦をしている人々には好評であったのが幸いであった。

 そして、軍対抗リレー競争において一刀に再び身の危険が起こる。

 リレーそのものは白熱した良い試合であったのだが、紫苑と穏が火種となった。

 二人はその豊かな水蜜桃をぷるんぷるんと揺らしながら走る。

 その光景に一刀のみならず観客である兵士や街の男達も下半身が大変なことになるのであった。

 一般人は奥さんや恋人に抓られるだけで被害はすんだが、王たる一刀はそんなものではすまなかった。

 走り終えた紫苑と穏、それぞれから熱のこもった眼差しに見詰められる。彼女達にとって運動会の成績はどうでもいいらしい。

 目を合わすと今夜、確実にヤラレると察知した一刀が顔を真っ赤にさせながら二人から目を背ける。

「……」

「むっ!」

 紫苑と穏のただならぬ様子と一刀の態度を理解した大喬と小喬が、他の者に見せ付けんばかりにそれぞれ彼の腕を取り、ピッタリと寄り添う。

「ご主人様、やりました!」

 そこへ、リレーを勝利で終えた蜀軍の最終走者であった愛紗が満面の笑顔でその場にかけつけたのである。

 愛紗は一刀にお褒めの言葉を貰おうと走った余韻が残ったまま、息をきらしながらやってきたのだが、リーチ一発ツモ役満な状態の彼を見て、手にしていた一番の旗をバキッっと折った。

 その後、修羅と化した愛紗を背に大喬と小喬をぶらさげたまま持久走をするハメになった一刀であった。



 祭りのような運動会はその後も続き、やがて終わりの時を迎える。

 そして、閉会式で発表される個人部門のトップの栄冠は誰の手に。

 壇上に上がった蜀の文官の麋竺と麋芳姉妹がそれを発表する。

 名誉ある栄冠を手にしたのは――

「個人得点の一番は、璃々ちゃんです! おめでとうございます!」

 その結果に会場に集まっていた人すべてが唖然とする。

「やった〜璃々がいっちば〜ん」

 璃々のみが喜び一杯で嬉しそうにしていた。

 何故、彼女が一番に成りえたのか?

 璃々は他の者と争わず、かつ他の者からも警戒されていなかった。

 互いが争い失格になったり、順位を落としたりして本来の力を出し切ることできなかったほかのものに比べ、璃々は着々と二番、三番と得点を重ねていたのである。(もちろん本人にそういった策略とは無関係である)

 おもいもせぬ伏兵の出現に落胆するものは数知れず。

 ただ、勝者がまだ幼い璃々であることに皆は安堵したようで、これといった不満などは出てこなかった。

 そして、スポーツを通して互いに親交を深めるという目的もそれなりに果たせたので洛陽で行われた運動会はおおむね成功という形でその幕を閉じたのであった。



 後日、璃々が一刀に望んだご褒美は『ごしゅじんさま一日璃々の父(とと)様権』であった。

 母である紫苑と共に三人でゆっくりと一日を過ごすことが出来た璃々はこれ以上ないくらいにご機嫌だった。

 そして、紫苑も、おもいもよらぬ娘からのプレゼントに終始にこやかであった。

 そんな彼女達と共に過ごす一刀も自然に優しい笑顔になる。

 洛陽の街を歩く三人の姿はまるで親子のようであったと、街の人々は後日語り合うことになるのであった。



 だが、互いに親交を深めることが出来たということとは別に、天の御遣いこと一刀をめぐる戦いは始まったばかりである。

「し、失礼します! ご、ご主人様!」

「にゃはは、お兄ちゃん、鈴々のこの格好かわいい?」

「あ、あのですね、運動会も好評でしたので、次は以前、ご主人様が仰っていた『ぶんかさい』なるお祭りを開催して、出店の売り上げをみなさんで競い合うという企画が……」

「それでまた一番になった者には主からご褒美が戴けるということで……」

「ななな、何であたいがこんな恥ずかしい格好をしなきゃならないんだよ!」

「あらあら翠ちゃん。ご主人様のご寵愛を得るためにも恥ずかしくてもここは頑張らなきゃだめよ?」

「璃々ね、つぎもいちばんになって、ごしゅじんさまにほんとの父様になってもらうの!」

 一刀の部屋に押しかけてきたのは蜀ファミリーであった。

 上から順に、頬を真っ赤にさせながら俯いている巫女装束姿の愛紗。

 天真爛漫な笑顔をしながらフリルのついたメイド服を着て一刀に感想を聞こうとしている鈴々。

 緋色に桜の花びらをあしらった浴衣姿の朱里。

 第三ドイツ帝国の軍服姿の星。何気に手にしている鞭が怖ろしいほど似合っていた。

 短いスカートを押さえながら羞恥心で首まで真っ赤にしたチアガールコスチューム姿の翠。

 ウサ耳と網タイツにバニー服姿の紫苑。

 ピンクナース服の璃々。

 という、まるで桃源郷のような光景であった。

 一刀は彼女達の後ろに以前、スクール水着を作って貰った仕立て屋と鈴々と行ったことのある下着屋の主人そして、翠と警邏中に出会い彼に秘密の石鹸を売った行商人達の姿が見えたような気がしたのである。

 そしてその夜――

 天の御遣いは自分の身の危険を感じ、『探さないでください』という書き置きを残して洛陽を後にしたのである。

 だが、そんなことを彼女達が許すはずもなく即座に万単位の大規模な捜索隊が編成され、朱里、桂花、穏の三軍師による見事なローラー作戦によりわずか三日で捕らえられた。

 中原の覇者となった北郷一刀。

 しかし、王たる彼の自由は余りにも少なかった。

 故に、天の御遣いとは天が人々に与えた生け贄のことをさすのかもしれない。


 終劇